作品紹介
第3章
テーマへの集中
Focusing on One Subject
モネは新たな画題を求めて、パリ近郊はもちろん、ノルマンディー地方やブルターニュ地方、地中海の港町などヨーロッパの各地を訪れて制作します。時には数ヶ月も滞在して、人影のない海岸などを好んで描きました。本章では、ノルマンディー地方のプールヴィルの海岸やエトルタの奇岩など、モネが何度も訪れた場所の作品群をご紹介します。滞在中、同じ対象であっても季節や天候、時刻によって、海や空、山や岩肌の表情が絶え間なく変化する様子をモネはカンヴァスに描き留めていきました。
ヴェンティミーリアの眺め
1883年12月にルノワールと旅した地中海沿岸に魅了されたモネは、翌年1月にひとりでこの地を再訪します。画家は輝くような光の下での植物や風景を明るい色彩で捉えようと奮闘し、それまであまり用いなかった青やピンクなども使うようになりました。本作はイタリアのボルディゲラからフランス方面を見た風景で、画面右側にはヴェンティミーリアの街並みが描かれています。
ラ・マンヌポルト(エトルタ)
エトルタのラ・マンヌポルト
エトルタはノルマンディー地方の切り立った断崖と奇岩で有名な海辺の景勝地です。モネはドラクロワ(1798-1863)、クールベ(1819-77)などがエトルタの奇岩を描いた作品を目にしていましたが、1883年から86年にかけて毎年この地で制作しました。奇岩「ラ・マンヌポルト」をクローズアップ構図で描いたこの2作品は制作年に3年の開きがあり、縦横の違いとともに色使いにも変化が見られます。
プールヴィルの断崖
プールヴィルの断崖
夏の晴天の下、切り立った崖が砂浜と海に青い影を落としています。複雑な陰影をたたえた石灰岩の岩肌は、様々な色彩が用いられることで表情豊かに描かれています。ノルマンディー地方のプールヴィルからヴァランジュヴィルの海岸に見られる断崖や渓谷の景観に魅了されたモネは、1882年のうちにこの地域に2度滞在し、100点もの海景画を残しました。